批評の芸術係数

批評というより感想録です。

"ラ・ラ・ランド" (2016) -映画短評-

 

2016年、デイミアン・チャゼル監督

2018年2月19日、立川、シネマツー、a studioで鑑賞

初見。

 

 今さら。

 観賞後に宇多丸さんの評*1をみたらいいたいことは大体書いてあったので、そっちを見て、でもいい気もするんですが。

 最初にいっておくと、僕はデイミアン・チャゼル作品が好きです。

 欠点を挙げると、少なくとも初見時は、序盤の主役二人にイライラする点。退屈に感じたシーンも何点か。映画館からプラネタリウムぐらいまでとかね。

 逆にいうとそれ以外は素晴らしい。導入のミュージカルはもちろん、ミアのオーディションシーン、そして何よりも"エピローグ"たるラスト10分。"もしも"はなんでこんなにも切なく美しいのか。そして束の間の夢想の後、彼らは"もしも"ではない現実を肯定する。

 僕はこの映画における"現在"はこのラスト10分だと思う。それまでの二時間弱は長い長い回想で、そう考えればシナリオの強引さも、ご都合主義も、外部の視点の欠如も全部納得できる。記憶なんてものは往々にして断片的で自分本位だ。

 いうまでもないけど音楽もいい。観賞後からずっとサントラを聴いてる。セブが途中で入ったバンドの曲も、売れ線狙いの曲っぽさはあるけど普通にいい曲だよね。お気に入りは"A Lovely Night"。

 今更すぎるけどまだ見てない人はぜひとも見るべき一本だと思います。合わない人はいるかもしれないけどね。

 

 あとラストシーンの中、ミアがオーディションを受けるところでテンポが落ちるのに一瞬引っ掛かったんで、あのまま夢想が暴走して狂っていきバッドエンド、というのも見てみたかったかも、と思った。誰得だけど。

"ゴッホ最期の手紙"(2017) -映画短評-

 

 2017年、ドロタ・コビエラ、ヒュー・ウェルチマン監督

2018年2月16日、下高井戸シネマで鑑賞

初見。

 

 とにかく映像が凄まじい。秒間12枚、総数6万枚以上の絵画からなるアニメーションは圧巻。一枚一枚がゴッホ風のタッチの絵であり、秒間24コマのいわゆるフルアニメーションではないというのもあって、とにかく「絵が動いている」という印象を受ける。そして何よりもゴッホのあの絵が動いている!という感動。ゴッホに詳しくない人でも"星月夜"や"夜のカフェテラス"くらいは知っているだろうし、これを見るためだけにでも行って損はしない。

 ジブリ作品をはじめとしたフルアニメーションはもちろん、コマ数を制限したリミテッドアニメーションや、さらには漫画でさえもが「動き」を重視して発展してきた日本の、少なくとも主流の、アニメ表現に対して、絵の連続であることを強く意識させるという点では、むしろアメコミに近いものを感じ、そういう点で漫画アニメ文化を比較するのも面白いかもしれない。(ヨーロッパ作品であるからバンドデシネなどを挙げるのが妥当なのかもしれないが、僕自身がほとんどそれに触れたことがないのでここでは割愛。)

 ストーリーはサスペンスであり、また主人公の成長譚でもある。薄味だが上質な感じ。描いている内容も人生の主観的客観的価値を問いかけるものであり、ゴッホを主題にこれを描くというのも味わい深い。

 全体を通しての見所はやはり冒頭のアニメーションと最後の手紙のシーンだろうか。正直一回では味わい尽くすことはできない映画。商品化されたら買います。

 

 非常におすすめできる作品。アニメファンやゴッホファンは問答無用で見に行くべきだし、なんとなく疲れていくときに観ると勇気づけてもらえる映画だと思う。

デトロイト(2017) -映画短評-

 

 

2017年、キャスリン・ビグロー監督

2018年2月3日、立川、シネマツーc studioで鑑賞

初見。

 

 僕はネガティブな事件をドラマチックな情動に訴えかける形で描くことには慎重になるべきだと考えている。この映画を見終わったあともそれは変わらない。しかしこの熱量と絶望を前にし、それが他人事ではないことに気付いた時、そんなことは綺麗事でしかないと思えてきてしまう。

 シーンでいうと、やはり長尺の警官による尋問のシーンが圧巻。その後ラリーが保護されるシーンでは、安堵、怒り、絶望、無力感が渾然となって正直泣いてしまった。終盤の嘔吐や、最後にラリーが縋るものは神の御許にしかなかった、というかのような結末も印象的。一方で序盤に少女が殺されるシーンは、理不尽な暴力の描写であると同時に、白人側のノイローゼも表しているようで辛い。あと冒頭のイラストによる導入はあれで本出してくれないかなというくらい好き。

 俳優陣もみんな素晴らしかったけれど、特にウィル・ポールター演じる警官クラウスの、クズ野郎感というか、見ただけでぶん殴りたくなる顔力は不快すぎて素晴らしかった。

 題材の類似からどうしても「ドリーム」を思い出すけれど、陰と陽というか非常に対称的で、ドリームが天才による英雄譚であり、様々な技巧を凝らして題材のもつカタルシスを最大限に活かすエンターテイメント作品であったのに対して、デトロイトは、貧困という前提はあるものの、ふつうの人の卑近な話であり、題材の陰惨さ、救いのなさを凝縮してそのまま叩きつけるような社会派作品。どちらも広い観客に響くように作られていてそれは成功していると思うが、題材の違いがストーリーテリングの違いを生んでいるのが面白い。

 デトロイトの舞台は1967年であり、1961-62年を描いたドリームからの5年という間隔は長いのか短いのか。

 総評としては重い話だが非常におすすめ。特にドリームを見た人は絶対にこの作品も見るべき。

 

 2018年2月17日、タイトルを変更し一部修正を加えました。