批評の芸術係数

批評というより感想録です。

デトロイト(2017) -映画短評-

 

 

2017年、キャスリン・ビグロー監督

2018年2月3日、立川、シネマツーc studioで鑑賞

初見。

 

 僕はネガティブな事件をドラマチックな情動に訴えかける形で描くことには慎重になるべきだと考えている。この映画を見終わったあともそれは変わらない。しかしこの熱量と絶望を前にし、それが他人事ではないことに気付いた時、そんなことは綺麗事でしかないと思えてきてしまう。

 シーンでいうと、やはり長尺の警官による尋問のシーンが圧巻。その後ラリーが保護されるシーンでは、安堵、怒り、絶望、無力感が渾然となって正直泣いてしまった。終盤の嘔吐や、最後にラリーが縋るものは神の御許にしかなかった、というかのような結末も印象的。一方で序盤に少女が殺されるシーンは、理不尽な暴力の描写であると同時に、白人側のノイローゼも表しているようで辛い。あと冒頭のイラストによる導入はあれで本出してくれないかなというくらい好き。

 俳優陣もみんな素晴らしかったけれど、特にウィル・ポールター演じる警官クラウスの、クズ野郎感というか、見ただけでぶん殴りたくなる顔力は不快すぎて素晴らしかった。

 題材の類似からどうしても「ドリーム」を思い出すけれど、陰と陽というか非常に対称的で、ドリームが天才による英雄譚であり、様々な技巧を凝らして題材のもつカタルシスを最大限に活かすエンターテイメント作品であったのに対して、デトロイトは、貧困という前提はあるものの、ふつうの人の卑近な話であり、題材の陰惨さ、救いのなさを凝縮してそのまま叩きつけるような社会派作品。どちらも広い観客に響くように作られていてそれは成功していると思うが、題材の違いがストーリーテリングの違いを生んでいるのが面白い。

 デトロイトの舞台は1967年であり、1961-62年を描いたドリームからの5年という間隔は長いのか短いのか。

 総評としては重い話だが非常におすすめ。特にドリームを見た人は絶対にこの作品も見るべき。

 

 2018年2月17日、タイトルを変更し一部修正を加えました。