批評の芸術係数

批評というより感想録です。

"悪の法則" (2013) -映画短評-

 

2013年、リドリー・スコット監督作品

2018年2月25日、dvdで鑑賞

 初見。

 

 もちろんリドリー・スコットの名前はブレードランナーやエイリアンで知っていたし、宇多丸さんのコヴェナント評*1を聞いてから絶対見なきゃいけないと思ってたのですが、なかなかタイミングがなく、先日ブックオフのワゴンセールで投げ売られていたのでようやく観る機会を得た次第。

 

 気付いたときには時限式首切りカッターが作動してました、という映画。

 前半部は明らかに不穏さが漂うものの具体的な描写はほとんどなく、退屈に片足突っ込んでるくらい事件らしい事件が起きない。しかし中盤のひとつの事件から怒濤の殺人ラッシュ。伏線がガンガン回収されて大体みんな死ぬ。

 結局事件の全貌は最期まで描かれないわけだがそれこそがこの映画のキモというか、気付いたときには得体の知れないものに飲み込まれ手遅れっていう理不尽さ。調子のって欲かいたら破滅したっていう典型的な話ではあるが。

 救いもなくカタルシスもなく、ただ「現実的」に処理されるシナリオだが、悲劇としての質はめちゃくちゃ高いと思う。

 あのときこうしていたら的な話だと、この間見たラ・ラ・ランドとも通ずるところもあったり*2*3。いやこっちにはなんの救いもないんですが。

 しかしもっとも印象に残ったのはカルテルのボスとの電話シーンからラストまで。この凄惨な事件の黒幕であるボスは、中盤に出てくる神父よりもよほど人間の感情を理解している、いうならば「神」のような存在。しかしというべきか、それゆえにというべきか、彼にとって主人公のような人間は文字通りモノでしかなく、ただ無慈悲に処理されるだけ。直後のゴミ集積所に投棄される遺体が強く印象に残る。

 それを踏まえると、黒幕その2ことマルキナ(キャメロン・ディアス)は神ならざる身でありながら神(彼女の言葉を使うならハンター)に憧れ反抗するルシファーといったところか。完全に失楽園

 個人的ベストアクトはボス役のルーベン・ブラデス。うまいというよりはまり役って感じ。調べたらサルサ歌手で政治家だそうで。納得。ていうか政治家がこんな役やって大丈夫か。

 

 爽快感を求める向きにはおすすめできないが、僕はメチャクチャ好き。たぶん今後何度も見返すと思います。

*1: https://www.tbsradio.jp/185548

*2:http://primalorita.hatenablog.com/entry/2018/02/25/174507

*3:感想の最後に書いた仮想バッドエンドはこういう「気付いたときにはもう遅い」というのを想定していたのでそういう意味でも満足